「玉井又次物語」日本一の製炭士・経験60年の玉井又次さん |
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| 備長炭 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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白浜空港から車で1時間のところに玉井又次さんの炭焼き窯がある。ストンと空気が止まってしまったような静かな空間。炭を焼く窯の周辺だけが、活気あふれるエネルギーを放って、心臓の鼓動のように脈打っている。
窯の中の温度は約1200度。ゴーゴーという火炎の音と周辺に漂う炭の匂いの中で、炭の窯出し作業は始まった。玉井又次さん(74歳)はエブリという長い鉄の棒を持ち、窯の前に立った。縦60センチ,横40センチほどの穴からオレンジ色になった炭を数本まとめて掻き出し、外に出して行く。 「炭の焼け具合を見ながら、出来あがっていった炭から順に出していくんや」 この作業をするためには長年の勘が頼り。半時間から1時間の間隔で窯の様子を見、炭の出来具合を調べ、出来あがった炭を順次取り出していくのだ。炭の様子が刻々と変わっていくのは夜中だって同じこと。
火のそばに行くだけで顔は熱くなり、作業を進めていくにつれ、みるみる額からは汗が流れる。玉井さんが炭を掻き出す時に、時折細かい火の粉がパッと舞い散り、銀河のように輝いてとてもきれいだ。 玉井さんが作っているのは、その製炭技術が和歌山県の無形民族文化財にも指定されている備長炭。和歌山県の県木、ウバメガシを原木としたものだ。 平安時代、弘法大師のころに始まり、江戸時代に紀州、田辺藩城下に住んでいた備中屋長左衛門という人が、独特の窯を考案し紀州から江戸の徳川幕府へ献上したのが名の由来。
作業工程は、ウバメガシの原木を整えることから始まる。大きなきは2つに割って、細い木は束にし、曲がりくねって木には切れ目などを入れてできるだけまっすぐになるよう修正し、窯の中に入れる。蒸すような状態で、3日ぐらい窯口のほうで温度を上げる。温度が300度になると、窯の中に入っている原木が分解されて炭化を始める。その後、5日ほど経過すると外に出る煙の色が青くなる。 煙の色の変化を見て、窯の口から空気を入れる。炭化した炭全体に火が回り、1200度にもなる高温で、ウバメガシは白熱する。これを窯口まで集め、取り出し、消し粉をかけて消火し精錬する。2日ほどしたら堀り出して、出荷する。これらの全工程を終えるまでに約10日かかる。 天候・気圧・雨や風などの状況によって炭のでき具合も異なるが、一番良いものが出来る可能性が高いのは9月、10月頃だという。
「炭づくりのどこが好きかというと、炭は嘘をいわないこと。本当に正直や。少しでも手を抜いたら、即結果として現れる。真剣にやらんとあかん。そうしんと、とんでもないことになるからね」
当時は、今のような炭づくりとは比較にならないくらい厳しいものだったという。炭焼きを営む火とは1年半くらいの周期で山から山へと家族をつれて回った。小学校を6年で卒業するまで10回あまり学校を変わった。勉強している時間などはまずなかった。 正直言って炭焼きという仕事を好きではなかった。 15、16歳の時が一番嫌だった。この仕事から逃れるために海軍に志願。兵隊になった。終戦はフィリピンの山奥で迎えたが、玉井さんは持っていた炭でなんでも焼いて食べていた。ある時、隣の兵舎の人は病気になって死んでいくのに、玉井さんの所では圧倒的に死者が少ないのに気がついた。
炭はありがたいものだと感謝するようになり、戦後、昭和24年から本格的に炭づくりに取り組んで約50年が経過する。 「すいぶん長い間、炭焼きとかかわってきたけど、苦労ばかりやな。とにかくね、備長炭というのは、つかみ所のないもんや。奥が深い、深すぎる。だからいまだに満足できる炭ができてない。これが俺の炭かなあと思うのは年に2回くらい。それはもう大切にとっておきたい。売りたくない。それほどいとおしいもんや」
「この音が大切なんや。瀬戸物の音がしたら、もう駄目。青銅の音が良い。余韻の残るような音になれば、満足できる炭」 といって耳をすませた。
そのようなことはすべて、玉井さんが子ども時代から知ってきたことだ。 「お風呂を焚くとき、まだぬるい水に窯出ししたばかりの炭を入れた。すると風呂の水が温まるだけでなく、体もつるつるになってきた。それから今でこそ備長炭をご飯に入れて炊くとおいしいことは常識になってるけど、これだって、昔から風邪をひいたら炭を入れて茶粥を炊き、その中に梅干を入れたもんを食べて治していたもんや」
人々の健康とおいしい料理に貢献する玉井さん。玉井さんは炭焼きの指導のために今も世界をかけまわる。玉井さんは炭焼きの第一人者として後継者の育成にも余念がない。 (※左写真) 右側の原木(ウバメガシ)が左の2本の太さまで圧縮することを示す玉井さん。これほどまでに圧縮される。抜けた水分(樹液)が木酢液となる。
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